優しい嘘
高校の化学は(化学に限らないが)特に有機化学や無機化学は本格的に理論背景から説明しようと思うと、大学初等レベルどころかそれ以上の内容が必要となる。だからどこかで、言葉を悪くして言えばごまかさないといけないときがある。
そのごまかしが、理論と大きくずれていなければ問題ない。しかし、理論からずれているどころか、理論に反する場合はどうしたらいいのか。
苦手な生徒を相手に授業をする場合、カッチリしたことを教えても消化不良になる。そこで、具体例を盛り込むだの、噛み砕いて説明するだの、言葉遣いを工夫するだの、色々やるわけである。しかしその過程で、どうしても上記にある「理論に反するごまかし」をせざるを得ないときがある。私はこれを「優しい嘘」と呼んでいる。
できれば嘘はつきたくないのが本音である。その場はしのげたとしても、将来専門的に学ぶときに悪影響を及ぼす可能性はある。しかし、自己を正当化するような意見になり恐縮だが、私のミッションは「入試をパスするだけの学力向上を提供すること」、極論すれば「目の前の入試問題を解けること」である。
だから、本当のことを教えることと、内容を頭に叩き込ませることの両方を天秤にかけたときに、後者をとってしまうのは、致し方ないかなと思う。「これは少しごまかしが入ってて、本当の話は大学に入ってから学ぶからそのときに勉強してね」とことわるのが落とし所だろう。
もちろん同業者の中には厳密性を重んじて講義をされる方もいる。そういう方は本当に尊敬する。私もそれを目指している時期もあった。しかし、やはり本格的に化学を専攻していた人には到底敵わない(自分もそこそこ長くアカデミアにいたので、その知の巨人っぷりはよく分かる)。だったら、少なくとも私は本来の目的に邁進するのが良いのではと思うのだ。