ツキアカリテラス

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2023年東京大学化学の入試問題を解いてみた

だいぶ遅くなってしまいましたが、先日ようやくまとまった時間がとれたので解きました。体感としては2022年度よりも易しく感じましたが、話題になっている物理の大幅難化があったので、その分に時間が取られるということを考えると難度はほぼ同じかもしれません。有機化学が難しくなったので、そこに賭けていた方は厳しかったのではと思います。また、昨年同様、IIの方が解きやすい問題が多かったので、問題を解く順序についてはちゃんと戦略を立てる必要があります。

 

第1問

Iはただの構造決定問題のように見えるが、結構難しい。頭の使い方が典型的な構造決定のアプローチとは少し違う。純粋にパズルっぽい感覚で解かなければならない。

IIは過去にも出題のあったNewman投影図に関する問題。こちらの方が立体構造をしっかりと考えなければならず難しい。

 

第2問

Iはフッ化水素の平衡に関する問題。オの(b)以外はサクサク解答したい。IIも目新しい問題はところどころあるが、そこまで難しくはない。

 

第3問

Iは共通テストを踏襲したような会話形式の問題であるが、問題の作りが秀逸。そもそも、会話ではなく「議論」なのも良い。理論・無機ではこの設問が一番難しい。IIはコロイドに関する問題だが、これも近年の東大のレベルを考えるとやや易しめ。

門出は陰から見送る

国公立前期試験の合格の報告に今年も生徒が来てくれた(1つ前の記事の通り、私への報告はいつもよりも寂しいものとなったが)。さて、ここで決まって起こるイベントが合格者の写真撮影である。

 

私も受験生だったときに経験があるが、よくスタッフと一緒にガッツポーズやらピースやらで写るアレである。私も誘われたらもちろんその中に写るのだが、その時限りだ。つまり、私は極力そこには入らないようにしている。だからああいう写真には、基本的に私は写っていない。少しせこい話になると広告塔になるのでは、という考えもあるが、それであれば本人だけが喜びの表情で写ればいいと思っている。

 

私がああいう写真に写らないのは、写真写りに自信がないとかそういう理由ではない。大きな理由が2つある。まず1つ目の理由は、この受験の主役は受験生であると思うからだ。それなのに教える人間が同じ写真の中にいると「わしが育てた」感がすごく出てしまう。それが個人的に好かないのだ。

実際に私のおかげです、と言ってくれる生徒もたまにいてありがたい限りなのだが、合格を手にしたのは間違いなく本人の努力の結果だろうし、科目レベルで考えても私以外の寄与は私と同等、いやそれ以上に非常に大きいのは言うまでもない。さらに言えば、他の講師やスタッフ、そして家族や友人がいてこそ成し遂げた合格である。なのに、それを差し置くような形で私が合格に導きました、みたいな形で写るのが、こそばがゆい以上に避けたいのである。

 

もう1つの理由は、受験が終わったらさっさと私のことは忘れて欲しいからである。受験が終わったら私はただの大学入試オタクである(いや、受験が始まろうが終わろうがそうなのだが)。実際、本当の恩師、慕うべき大人たちはここから先の未来に出会うことになると思っている。私はと言えば、ただ、偶然出会って大学入試の時間を共にし、そこで時折声をかけただけである。それ以上のことは何もしていない。その人の人生という長い道程の中では、ただの通りすがりの人間である。

 

ただ、ふとしたときに大学入試を振り返るときがあって、そのときに、あああんな人いたな、と思い出してくれればそれだけで私は幸せである。

私は生徒に生かされている

国公立大学前期試験の合格が発表された。私の担当生徒も、見事合格した者もいれば、後期試験に臨む者、そしてもう1年頑張る者と様々である。

 

もちろん合格した生徒は祝福したいところだが、どうしても不合格だった生徒のことがそれ以上に気になる。特に今年は私の周りは色々な事情があり、かなり厳しい結果となったのもあり、かなり精神的にこたえた。自分の力が及ばなかったことが非常に悔しいし、それ以上に悔しい、辛い思いをしている彼らの身代わりになりたいとも思った。果たして自分は教える資質に欠けているのではないか、この仕事を辞めた方がいいのだろうか、と自分を責める数日が続いた。

 

しかし、実際に受験生の声を聞いたり、未来の受験生と関わっていて元気を取り戻したりして何とかやっていけている。生徒がいないと生きていくことすらままならないんだなあ、と思う。

 

それでも、目の前の生徒を笑顔にするというミッションがある。頑張ります。

2023年度京都大学化学の入試問題を解いてみた

ここ数年に比べると重厚さはやわらいだ印象ですが、定量的考察やパズル感覚での構造の捉え方が相変わらず強く要求されます。特に今年はその傾向が顕著で、温故知新と言いますか、昔の京大らしさを解いていて感じました。

 

大問1:前半は黒鉛の結晶。問3はどの原子を数えるかに注意。後半は鉄の精錬に関する問題。平衡定数との大小関係を考察するのは平衡でも最重要の考え方。純粋に化学平衡として難しい部分はないが、終盤はやや面倒。ここは数式よりも座標平面で領域として考えた方が楽。このような数学的処理は京大では非常に好んで出題される。

 

大問2:ラウールの法則に関する問題。状態3は類題が最近の阪大であった。式の形をよく見て考えなければならない。問5は式の形から二次方程式をイメージできるか。それよりも問4が難しい。それぞれを理想気体と考えると詰む(おそらく分子間相互作用のため、そこからずれるものと思われる)。式(2)が液相のモル分率に依存せず成り立つことから、これを用いればよいと気づけるか。

 

大問3:ピリジン環をもつ化合物の構造決定。難しくはないがかなり思考させる問題で、シンプルながら良い問題。原子数に対する意識をどれだけ強く持てるか。

 

大問4:アミノ酸の形ではあるが実質、構造決定問題。ここも原子数に対する意識がポイント。不斉炭素原子の増減も考慮しなければならないが、これは近年の難関大ではトレンドのネタなのでものにしたいところ。

なぜ私はツキアカリなのか

何かで「教師は太陽であれ」という言葉を聞いたことがある。

調べてみたら、TOSSで有名な長谷川博之さんらしい。

「黄金の3日間」の具体的なことが知りたくて著書を読んだので知った。

(この本は大変参考になった)

太陽のようにあたたかく生徒を照らす存在であれ、ということらしい。

これは正論である。

 

これと対比して、「教師は月であれ」という言葉もあったはずである。

残念ながら、出典を失念してしまった。

月のように落ち着いて安心感を与える存在であれ、ということだと思う。

これもまた正論である。

 

もともと内気だった私は、そもそも太陽になんてなれないと思っていた。

それに、周囲を照らすほどにキラキラした人生も歩んでいない。

「ひっそりと咲く月見草」と故・野村克也さんは語ったが

まさにそんな生き方をしてきた。

 

そう、月だ。

私にはカリスマ性など持ち合わせていない。

だが、安心感を与えることはできる。

これは自覚していないのだが、周囲の多くがそう言うのだから間違いないだろう。

それに、私は教師−生徒の関係では生徒が主人公だと思っている。

この考えは決して揺らぐことはないだろう。

 

先頭に立ってみんなを引っ張る存在でなくてもよい。

むしろ、最後方からみんなを見守る存在でも良いのではないか。

太陽の光を受けて行き先を照らす月のように。

 

今日も、誰かを照らす月明かりとなる。

2023年度神戸大学化学の入試問題を解いてみた

ここ数年は標準的な問題ばかりでしたが、今年は大幅に難化。2010年以前にも大問1つくらいはこれくらいの難しめの問題が出ていましたが、今回は大半がそういった問題でした。特に大問3が難しいです。

 

大問1:「印加」の表現は難しいがこういう表現は慣れるためにも入試問題で積極的に使って欲しいと思う。問1は簡単そうで面食らうかも。問2は問題文の「なお」以降をちゃんと読まないと塩化銀水溶液=水の電気分解と誤解してしまう。問3は有効数字の指定がないのでpHに合わせて1桁とするのが良いだろう。液量が100mLであることに注意。問4は思考力を要する。名称で答えるのか化学式で答えるのかの指定がないのが悩ましい。問5は比較的解きやすいのでこれを先に解くのが賢い作戦か。

 

大問2:問1は塩化物イオンの変化量がわずかで無視できるということに気づけば計算は楽。それでも面倒なので、後回しにした方が良い。問3は新しい問われ方で面白い。問6は12族元素であるカドミウム遷移元素とするかどうか悩ましい。問8は単位に注意。

 

大問3:環状エステルで炭素間二重結合をもち、おまけに加水分解でケト–エノール互変異を起こすといった盛りだくさんの化合物に関する構造決定。非常に良い問題だが、受験生のレベルを考慮すると超難問。神戸大でもこのレベルの出題がなされるようになったことは今後注意が必要。オゾン分解により二重結合の切断が起こることを知っていなければ解けない。問6はトランス付加は考慮しなくても大きな失点にはならないと思われる(阪大ですら但し書きをつけるのだからこれをノーヒントで考えさせるのは酷すぎる)。環状構造が非対称なので(トランス付加さえ考慮しなければ)そこまで難しくはないが、構造式を書くのに時間がかかる。

 

大問4:糖類に関する問題。問5以外は落とせない。問5は細かい知識なので、できなくても悲観しなくて良いだろう。

2023年度大阪大学化学の入試問題を解いてみた

今年もこの時期がきたので自己研鑽もかねて解いていきます。

 

全体的な難度は例年並みで(物理が大幅に難化した分易しくなった印象を受けがちだが決して易しいとは感じなかった)、ここ数年高止まりの印象。ただ、例年よりも易しい問題と難しい問題の難度差が大きく開いた印象でした。かなり以前はこういうセットが多かったので、その傾向に近い形だと感じました。

 

大問1:電離平衡の問題。物質バランス・電荷バランスの式を立てるといった、テーマとしてはありふれた問題。大昔にアンモニアの電離平衡で類題が出ている。ただ、やや問題文が不親切なので少し行間を読む必要があった。また、後半のグラフ描図の問題を考え込まずに解けたかどうかもカギになるのでは。特に低濃度のときにどこまで厳密に議論すべきかが悩ましい。

 

大問2:気液平衡に関する問題。この手の問題でありがちな定積条件ではなく定圧条件であることに注意。そこまで難しくはないが状況把握力が試されるので、差がついたと思われる。問6で201℃の温度設定の意図が分かるので解ければかなりスッキリする。

 

大問3:反応理論とラセミ体に関する問題。単純な知識問題が多いが、問題数が多いので多少焦るかも。問1と問4はできなくても悲観しなくて良いだろう。それよりもそれ以外の問題を平常心を保って正解できたかが大切。問3はシス-トランス異性体の存在に注意。問7は良問、だが「分子式」に戸惑うかも。問9は反応機構が分からなくても思考で解答を導ける(というより、そういうスタンスで解くべき問題だと思われる)。

 

大問4:糖類に関する問題。どれも標準的なので完答を目指したい。慌てて構造式で原子の書き忘れがないように注意する。