【大学入試】無機化学の反応式(硫化水素の製法)
生徒:先生!今度は硫化水素の実験室的製法、硫化鉄(Ⅱ)と塩化水素の反応が分かりません!これこそ丸暗記するしかないでしょう!
先生:いやいや何をいっているんだい。なんでもかんでも暗記をするんじゃなくて、暗記を減らす努力をする、そういうスタンスが大事じゃないか。思考から逃げてばかりでは成長できないよ。
生徒:!?!?、、、ということは、これも考えて書くことができるのですか?
先生:そうだ。さて、あなたは中和反応は覚えているかい?
生徒:もちろんですよ。水素イオンのやりとりですよね。
先生:では、酢酸ナトリウムと塩化水素の反応式を書けるかい?
生徒:簡単ですよ。CH3COONa + HCl → CH3COOH + NaClですよね。
先生:じゃあなんでその反応が起こるか説明できるかい?
生徒:え、、、そんなの、起こるから起こるに決まっているじゃないですか。ほら、こう、それぞれのイオンが交換するわけで、、、
先生:苦しい説明だね(笑)よし、ここから復習だ。酢酸は強酸、弱酸のどちらだ?
生徒:はい、弱酸です。
先生:弱酸ということは電離度は?
生徒:それはもちろん小さいですよね。
先生:ではこう考えてみようか。酢酸の電離度は非常に小さい。つまり次の反応が可逆反応ということだ。
CH3COOH ⇄ CH3COO^- + H^+
可逆反応ということは逆反応が無視できないくらい起こるということになる。ではそれを踏まえると、酢酸イオンはどのようなはたらきをしていると言えるかな?
生徒:えっと、、、逆反応が起こるのだから、水素イオンを受け取る、、?
先生:ということは?
生徒:え?
先生:水素イオンを受け取る物質をなんていうんだっけ?
生徒:あ、そうか、塩基ですね。
先生:そうだ。つまり、弱酸由来の陰イオンは水素イオンを受け取りやすいんだ。言い換えれば弱酸の共役塩基は強いということだ。
生徒:そうか、だからさっきの反応は酢酸イオンが塩基としてはたらいて、塩化水素から出た水素イオンを受け取るのですね。
先生:そう、そしてこれを弱酸の遊離というんだ。では本題に戻ろう。硫化水素は強酸、弱酸のどっちだ?
生徒:ふっふっふ、これは頑張って覚えましたよ。弱酸ですよね。H2S ⇄ 2H^+ + S^(2-)が起こるんですよ。
先生:じゃあもう分かるんじゃないのか?
生徒:えっ??
先生:硫化鉄(Ⅱ)FeSに注目しよう。こいつは硫化水素が電離してできた、硫化物イオンを持っているんだね?
生徒:あ、そうか!これは酢酸イオンと同じで、水素イオンを受け取れるんだ!
先生:そうだよ!硫化物イオンが塩化水素から水素イオンを受け取って硫化水素になる、と考えれば、次の反応式は暗記なしで書けるだろう。
FeS + 2HCl → H2S + FeCl2
生徒:すごいですね!これも自分で考えて書くことができる!
先生:無機化学の反応は酸化還元反応も多いのだけど、中和反応もたくさんあるんだよ。もちろん水素イオンと水酸化物イオンから水ができる反応もあるけれど、こういった弱酸の遊離もけっこうあるから、中和反応の良い復習になると思うよ。