ツキアカリテラス

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化学の作問の悩ましさ

仕事柄、高校化学の問題を作ることがある。ベーシックなものから入試レベルのものまで様々である。ベーシックなものであれば、いわば計算ドリル的なものだから、ササッと作れるのだが(数値替えをすればほぼ無限に作れる)、悩ましいのは、模試やちょっとした力試しの問題で使うような、入試レベルの問題である。

 

特に最近は著作権に関して色々と厳しくなってきていて、例えば個別にハイと入試問題をコピーしたものを渡すことは難しい。そこで、入試における典型問題を真似て作ることになる。

 

ところがこの場合、大学入試の問題を模して作ることは非常に難しい。私は本番の入試と模試は似て非なるものだと思っている。大学入試は大学の教授陣が受験生に向けて送るメッセージだと考えていて、問題の独創的な構成だけでなく、そういうメッセージ性を再現するのが非常に難しいのである。なるべく近づけるために分析に分析を重ねていくのが我々の仕事でもあるのだが、それでもいっこうに近づける気がしない。それほどに大学側から送られるメッセージは深いものだと思う。

 

そしてもう一つ、化学の作問を難しくしている要因がある。それは「具体的な事物を扱うこと」である。これが数学や物理であれば、抽象度が上がるのでまだ作問はしやすいのだろうが(たぶん数学や物理は別の点で悩ましさがあるのだろう)、ある程度具体的な事物を取り上げないと入試問題らしくならず、作られた感が半端なく出てしまう。だから、具体的な物質をテーマとするために、あらゆる物質の物性を正しく、しかも深いレベルで理解しておかねばならない。大学の教授陣の知識の深さには到底かなわないと、作問をするたびに思う。

 

まだ物理化学的な要素が含まれていれば、多少は抽象的な議論でも問題ないのだが、無機化学有機化学ではそうはいかない。最先端の科学にまつわる物質ももちろん入試で出てくるので、その点に関してもアンテナを張っておかねばならない。

 

そういうわけで、自分の作る問題では、時に謎の1価の弱酸HAを登場せざるを得なくなるのである(笑)